またもや米国で痛ましい銃乱射事件が起きてしまいました。2016年6月12日未明、フロリダ州オーランドのナイトクラブで男が発砲、死者51人、けが人53人という、米国史上最悪の犠牲者数を出しています。

 周知の通り、こうした銃乱射事件は、米国ではたびたび起こっています。非営利団体GUN VIOLENCEARCHIVE(GVA)の調べでは、2015年の米国内での銃乱射事件数は331件、死者は13,430人に上ります。2007年のバージニア工科大学、1999年のコロンバイン高校での事件を思い出す人も多いのではないでしょうか。

 こうした凄惨な事件が起こるたびに、米国内外で銃規制の論議が巻き起こります。銃が簡単に手に入らないようにすればこうした事件を防ぐことができる、というのが規制賛成派の主張。それに対し反対派は個人の自衛のために銃所持が必須という原則を繰り返します。前者が民主党、後者が共和党の主張と重なることもあり、今回の事件は大統領選にも少なからず影響を与えそうです。

 2015年4月に英国で出版された『Gun Baby Gun: A Bloody Journey into the World of the Gun』では、BBCで活躍したジャーナリストIain Overton氏が、世界25カ国での取材・調査によって「銃」をめぐる問題に斬り込んでいます。それによれば、米国でも、店舗で銃を購入する際には、身元確認が必要になります。ところが、米国内で年に5,000件は開かれている「銃の見本市」で買う際には身分証明が不要なことが多いというのです。さらに、個人間の取引では当然身元確認はありません。

 つまり、米国で銃を買うのは、ほぼフリーハンドなのです。その対照的な例として著者が挙げるのがアイスランド。同国も銃の所有率では世界の上位に入るそうです。しかし、治安はきわめて良く、殺人件数がゼロだった年があるほど。アイスランドの人々が銃を所有するのは狩猟やリクリエーションのためであり、護身のために持つ人はほとんどいません。治安が良いので護身銃は必要ないのです。そのうえ、銃を手に入れるには健康診断や講習、適性検査を受けなければなりません。

 世界の銃事情を知った著者は「銃が暴力的衝動を抑えることはなく、逆にそれを引き出す」と言います。銃が簡単に手に入るから銃撃事件が起こる→事件がひんぱんに起きるから自分の身を護らなくてはいけない→銃をもつ人が増える→事件が起こりやすくなる……どこかでこの悪循環を断ち切らなくては、血なまぐさい事件が減ることはないのでしょう。


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SERENDIPダイジェスト『銃社会の現実-血にまみれた銃の世界を探る (原題:Gun Baby Gun : A Bloody
Journey into the World of the Gun)』
(海外書籍:イギリス)Iain Overton 著 ( Canongate Books Ltd)