スティーブ・ケース 著 | 加藤 万里子 訳 | ハーパーコリンズ・ジャパン | 264p | 1,600円(税別)

1.曲がりくねった道
2.AOLの誕生
3.第三の波
4.スタートアップ、スピードアップ
5.三つのP
6.破壊を許す
7.シリコンバレーから「その他のあらゆる地域」へ
8.新たな潮流 -インパクト投資
9.栄光と挫折
10.見える手
11.破壊されるアメリカ
12.波に乗れ

【要旨】未来学者アルビン・トフラーは1980年の著書『第三の波』(邦訳は1982年、中央公論新社)で、農業革命、産業革命に次ぐ第三の波を情報革命とし、現代の情報化社会の出現を見事に予言した。本書では、トフラーの第三の波の中にあるインターネット社会にも第一の波、第二の波があり、今は“インターネット時代版”第三の波が押し寄せているところだとする。著者は「第一の波」の担い手としてインターネット黎明期にインフラと土台を築いた企業の一つ、AOL(アメリカ・オンライン)の共同創設者。あらゆる産業のほぼすべての製品・システムがインターネットにつながり、それによって産業自体が大きく変革する「第三の波」においては「第一の波」の時と同様の問題が発生し、それを乗り越えなくてはならないと説く。著者自身のAOLでのかつての経験を紐解きながら、第三の波の中で成功するためのヒントを提供している。著者は現在、投資会社レボリューション会長兼CEO、起業家を支援するケース財団会長を務める。


あらゆる産業がインターネットを必要とする「第三の波」

 インターネット時代は幕開けから驚異的なスピードで進んできた。その間に、いくつかの進化の段階も経てきている。
 インターネットの第一の波はオンラインの世界にインフラと土台を築くことだった。その担い手となったのは人々をインターネットにつなげ、人と人をつなげることを可能にするハードウェアやソフトウェア、ネットワークを作る企業群、シスコ、スプリント、ヒューレット・パッカード、サン・マイクロシステムズ、マイクロソフト、アップル、IBM、AOLだ。

 当時、私たちオンラインのパイオニアは、あらゆるものと戦わなければならなかった。ほとんどのパソコン・メーカーの幹部は、なぜ普通の人々にインターネットが必要になるのかまるで理解できなかった。AOL創設初期は、インターネットとは何なのか、どのように機能するのか、なぜ人々が使うようになるのかを説明することが仕事の大半を占めていた。

 インターネットの第二の波は21世紀の初めにはじまった。第二の波は、インターネットをベースにして、その上からさらに別のものを築くことだった。グーグルからヤフーまでさまざまな検索エンジンが登場し、アマゾンとイーベイは、インターネットの百貨店を生み出した。ソーシャルネットワークが成熟したのも、第二の波でのことだった。また、アップルがiPhoneを、グーグルがアンドロイドを発表してモバイル・ムーブメントが生まれたのもこの時期だ。これらが融合して第二の波の勢いがさらに増し、世界中を数百万というモバイル・アプリケーションで満たす経済が出現した。

 このような第二の波が今、別の新しいものへと移行しはじめている。第三の波のはじまりだ。第三の波とは、インターネットを特徴としない製品でもインターネットを必要とする時代だ。「インターネットに接続可能な」ということばが「電気に接続可能な」ということばと同じくらい滑稽なものに聞こえはじめる時代だ。さまざまな製品にインターネットに接続したセンサーを加えるIoT - Internet of Things(モノのインターネット)というコンセプトが、それだけでは限定的すぎると見なされる時代でもある。なぜなら、私たちはもっと広範なInternet of Everything(あらゆるモノのインターネット)が出現しはじめていると気づくことになるのだから。

 この時代の起業家は、世界最大級の産業や、私たちの日常生活にもっとも影響を与える産業に挑戦することになる。彼らは医療システムを作り直し、教育システムを改革する一方で、食をより安全にし、通勤をより容易にする製品とサービスを作り出すだろう。

 新しい世代の起業家が成功を収めるには、第二の波のときの戦略は役に立たない。彼らに必要な戦略は、むしろ第一の波で役立った戦略だ。インターネットが誕生してからまだ日が浅く、世間からは懐疑的な目を向けられて、巨大な参入障壁が立ちはだかっていた時代、パートナーシップを築かなければ顧客を獲得できず、規制システムに阻まれ、適切な道を見つけ出そうと必死で格闘していた時代の戦略だ。

「三つのC」が第三の波の教育改革の原動力に

もっとパーソナルに、もっと個人に合わせて、よりデータを活用する。これは第三の波全体のスローガンだ。巨大かつ重要でありながら、複雑で機能不全に陥っているひとつのシステムにもあてはまる。アメリカの教育システムだ。
 すでに、20年前には想像もできなかった方法で教師が保護者とやりとりできるさまざまなツールが存在している。また、学習プロセスを個人に合わせるテクノロジー、つまり、生徒の学習能力に適応するソフトウェアも多くの企業によって設計されている。

 教育の改革には、最終的には多角的なアプローチが必要だろう。もちろん、重要なのは教材、言うなれば、コンテンツだ。しかし、コンテンツだけを重視するのは間違いだ。第一の波では、コンテクストとコミュニティが同じくらい重要であることを学んだ。AOLでは、コンテクストとは、無数に見える選択肢の中で人々を導くために、情報をわかりやすく提示して監督をすること、主流の客層を引きつけるために信用のあるメディア企業と取引することを意味していた。そしてコミュニティとは、人とコンテンツをつなぐ方法と、人と人を結びつける方法を作ることだった。

 第一の波でAOLの成功を牽引したこの「三つのC」 (コンテンツ、コンテクスト、コミュニティ)は、第三の波の教育改革の原動力となる。コンテンツを適切に示す教師は不可欠だが、利用者が評価する信用状(学位や賞状)を与えてくれる立派なブランド(たとえば、トップ大学)も必要だ。それに、生徒が互いに学び、生涯にわたって交流できるように、コンテンツを中心としたコミュニティを築き、卒業後も長期間持続するネットワークを形成する必要がある。

パートナーシップ、政策、粘り強さが第三の波の起業の必須条件

 意欲的な起業家たちに第三の波の話をすると、その可能性に胸を躍らせた人々から、しばしば次のような質問を受ける。第三の波で起業するとしたら、今までと違うどんなことをすべきなのか? そういうときは、三つのPに尽きる、と答えている。三つのPとは、パートナーシップ(Partnership)、政策(Policy)、粘り強さ(Perseverance)だ。

 第三の波では、製品がすぐれていてもそこそこの成功しか見込めない。アプリストアに自社アプリを投入してユーザーが登録するのを待っていても、愛好者を増やすことはできないだろう。なぜなら、第三の波に乗るほとんどの産業には「ゲートキーパー」がいるからだ。たとえば、各学区には教室での学習に関連する製品を認可する重要な意思決定者がいる。起業家が成功するかどうかは、ほとんどの場合、そうした意思決定者に影響を与えることができる組織や個人、ひいては意思決定者本人と、建設的かつ協力的なパートナーシップを築けるかどうかにかかっている。

 第三の波の産業では、政府が常に影響力を持つ。つまり、第三の波の起業家たちは、これから遭遇するであろう政策問題に精通していなければならないということだ。たとえば、新しい融資プラットフォームには証券取引委員会(SEC)の認可が必要だし、個人の遺伝子検査は食品医薬品局(FDA)の承認を受けなければならない。

 企業のサクセス・ストーリーに粘り強さはつきものだが、第三の波の起業家精神には、さらなる粘り強さが求められる。これからの時代の偉大なアイディアには、実現までに山ほどの障害が待ち構えている。ハードウェアやソフトウェアだけでなく、ロジスティクスやサプライチェーン、パートナーシップや政策に関する障害もある。

 起業家を自認する人たちへ。これからの国と世界は、あなたたちにかかっている。だから、志を高く持とう。
 企業のリーダーたちへ。未来に不安を感じると同時に、未来の可能性をつかみ、その可能性を何があろうと休みなく追求してほしい。

 次はあなたの番だ。本書を読んでいるからには、起業家の未来と第三の波の可能性に関心があるに違いない。ひょっとしたら、もう既にあなた自身のアイディアを温めているのかもしれない。第三の波とその先にあるものを先導するかどうかは、あなた次第だ。正直なところ、私は少々うらやましく思っている。この先、これ以上の満足感と興奮を経験することはないだろう。とりわけ、第三の波がかつてないほど有意義な変化の可能性を生み出している今は。

コメント

「第三の波」においてあらゆる産業がインターネットへの接続を前提にするようになると、インターネットそのものが変質する、あるいは別の種類のネットワークが登場するようになるかもしれない。後者については神戸大学大学院の三品和弘教授らを中心に「センサーネット」構想が動き始めている(『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法』東洋経済新報社)。とくに新しいネットワークに関しては、まさに「第一の波」と同様、パイオニアとしての茨の道が待ち受けていることだろう。私たちは、ネットワークが多様化し、すべてのものが何らかのかたちで“つながっている”ことを前提とした社会で、どんな新しいチャレンジが可能なのか、あるいはどのように自分の身を守ればよいのか、そろそろ真剣に考えるべきではないだろうか。

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