(原題)Radical Business Model Transformation: Gaining the c ompetitive e dge in a d isruptive world | Carsten Linz, Gunter Muller-Stewens, Alexander Zimmermann 著 | Kogan Page | 260p

1.ビジネスモデルの抜本的な変革はなぜ必要か?
2.ビジネスモデルの抜本的な変革をどう実行するか?
3.変革に成功した企業から学ぶ
4.どう進めるか?

テクノロジーの進化、人々の意識の変化に伴い、成功するビジネスモデルは変わってくるはずである。スタートアップはもちろん、伝統ある大企業であっても、常にビジネスモデル変革のチャンスはうかがうべきではないだろうか。本書では、現代のビジネスにはデジタライゼーション(デジタル化)とサービタイゼーション(サービス志向)という二つの大きなトレンドがあるとし、それらを考慮に入れた上で有効なビジネスモデルを四つに分類している。そして、豊富な事例を紹介しながら、企業がとるべきビジネスモデル変革のシナリオを理論と実践両面を踏まえて提示している。著者のカルステン・リンツ氏は、世界的ソフトウェア会社SAPの事業開発担当役員。グンター・ミューラー・スティーブンス氏は、スイスのザンクトガレン大学教授。アレキサンダー・ジマーマン氏はザンクトガレン大学助教授。


デジタライゼーションはフィジカルに回帰する

 現代のビジネスリーダーにとって「デジタル化(デジタライゼーション)」と「モノ志向からサービス志向への変化(サービタイゼーション)」という二つのメガトレンドは重要な戦略課題になりうる。常にこれらのトレンドを注視し、ビジネスモデル変革のチャンスをうかがうべきだ。

 デジタライゼーションは、企業同士の競争のあり方を根底から変えた。市場における差別化の基準は、もはや品質や価格ではなくなった。ビジネスモデルが市場の勝者を決めるようになったのである。

 ソニーが勢いを失ったのは、技術的なイノベーション力がなくなったからではない。ビジネスモデルが競争力を失ったのだ。アップルという競争相手が、ハードウェアとソフトウェア、コンテンツとマルチプラットフォームを統合した包括的なビジネスモデルで戦いを挑んできたからだ。優れたビジネスモデルを携えたアップルには、価格戦略も技術的優位も必要なかった。

 デジタライゼーションは、実体のあるモノを、実体のないデータに変換するプロセスだ。音楽はかつてはCDというモノで流通していた。今は違う。iTunesをはじめとするプラットフォーム上で、実体のないデジタルデータとして取引されるのが主になってきている。

 デジタライゼーションが進んでも、実体のあるフィジカルな世界が消えてなくなるわけではない。近頃は、逆の流れも出てきている。フィジカルに向かうその流れを「フィジケーション」と呼ぼう。これは単なるデジタルからフィジカルへの回帰ではない。デジタライゼーションによって得られた知識や知見、データを生かした変化なのだ。たとえば近頃、アマゾンのようにオンラインストアしか持っていなかった企業が実店舗を開店する例がよくみられる。また、ウーバーやエアビーアンドビーはデジタルなプラットフォームだが、自動車、住居といった実体のあるものを使ってビジネスを行っている。

 サービタイゼーションは二つの段階を経ている。初期段階では、製品に付加価値をつける程度のものだった。製品の購入者に対するメンテナンスサービスがこれにあたる。それは個々の顧客にカスタマイズされたものではない、標準化されたものである。

 その次の段階は、顧客の個別のニーズに対応したサービスの提供だ。航空機のエンジンを製造しているロールスロイスという会社は、航空会社がなかなか自社の製品を買ってくれないという悩みを抱えていた。航空会社が求めていたのはメンテナンスサービスのみだったのだ。そこで同社は「パワー・バイ・ザ・アワー」という、空港での駐機時間のみ、エンジン整備のフルサービスを行うサービスを始めた。これは、それぞれの航空会社、航空機の種類や状態にカスタマイズされたサービスだ。もはや自社の製品は関係なくなっており、究極のサービタイゼーションといえるだろう。

 デジタライゼーションからフィジケーションに移るように、サービタイゼーションにも、サービスからモノに回帰する動きがある。それを「プロダクタイゼーション」と呼ぶ。カスタマイズされたサービスの中から顧客に人気のあったサービスを標準化し、ソフトウェアとしてパッケージ化するケースなどがそれにあたる。

包括性とカスタム性を軸にビジネスモデルを四つに分類

 デジタライゼーションとサービタイゼーションの時代に有効なビジネスモデルは、2種類の要素を縦軸と横軸にとることで、四つのタイプに分類できる。

 縦軸の要素は「取引の包括性」だ。たとえばアップルのように、ハードやソフト、コンテンツなどを包括的に提供している場合には「高」となる。逆に、単一の製品やサービスを単独で提供していたならば「低」だ。「高」になるほどデジタライゼーションが進んでおり、「低」はフィジカルということになる。
 横軸は「カスタム性」。「高」になるほどカスタマイズされたモノやサービスを提供する。「低」の場合は標準化されている。

 以上の2軸で4象限に分けられ、「縦低・横低」が「(1)プロダクト型」、「縦高・横低」が「(2)プラットフォーム型」、「縦低・横高」が「(3)プロジェクト型」、「(4)縦高・横高」が「ソリューション型」のビジネスモデルである。

 (1)のプロダクト型は、多数の顧客に同じ標準化されたモノやサービスを単独で提供する旧来型のビジネスモデルだ。提供する品質や価格などで他社と差別化できているならば、このビジネスモデルでも十分やっていけるだろう。ただし、常に新しいビジネスモデルを携えた他社から挑戦を受けるため、シェアを維持するには相当の努力が必要となる。

 (2)のプラットフォーム型には、アマゾンやフェイスブックなどのよく知られたサービスが当てはまるだろう。多種多様なサービスを包括的に、標準化されたプラットフォーム上で展開する。このビジネスモデルでは、いかに使い勝手のよい優れたプラットフォームを、他に先駆けて構築、標準化できるかが勝負となる。プラットフォームの質の面で劣るようだと、サービスが短命に終わることが多い。

 (3)のプロジェクト型は、一つか少数に絞り込んだモノやサービスを、個々の顧客に最適化、カスタマイズして提供するモデル。顧客の情報をしっかりと把握し、個々の事情に臨機応変に対応できる技術力などがある場合に適している。ただし、規模の拡大は望めないので、収益を安定させる工夫が必要となる。

 このビジネスモデルを採用し成功している企業にNüssliがある。同社はスイスで創業された国際企業で、メジャーなスポーツの大会やカルチャーイベント、展示会などの設営を請け負っている。同社はイベントの開催時だけの一時的な顧客に対し、高度にカスタマイズされたサービスを提供している。

 (4)のソリューション型には、先に紹介した、短い時間で航空機のフルコースの整備を行うロールスロイスが当てはまる。複数のモノやサービスを巧みに組み合わせて質の高いサービスを提供し、顧客との長期にわたる信頼を築ければ、競合他社の参入は難しくなるだろう。そのためには、高レベルの技術力と事前の投資が必要である。

数度のビジネスモデル変革を経たネットフリックス

 1997年創業のネットフリックスは、生き残りをかけて、ときに慎重にときに大胆に、ビジネスモデルを変革し続けてきた。2016年現在、約50カ国でインターネットテレビネットワークや、オンデマンドストリーミングサービス、レンタルDVDなどの事業を展開し、5700万人の顧客を抱えている。

 ネットフリックスの事業は郵送によるDVDレンタルサービスから始まった。設立からわずか2年、ネットフリックスは最初の大きなビジネスモデルの変革を断行する。レンタル無制限月額定額制の導入である。しかしその後、同業のブロックバスターが同様のシステムを採用したことにより、値下げ競争が激化し、収益に影響を与えるようになる。

 次の大きな変革は、2007年のストリーミングサービスの開始だ。DVDディスクの郵送というフィジカルなサービスのデジタライゼーションを図ったのだ。テクノロジーの発達を注視しつつ、顧客がレンタルよりも配信の方が効率的と感じるようになるタイミングでの決断だった。

 2013年には、オリジナルコンテンツの製作、配信も成功させた。それまでのプラットフォーム型ビジネスモデルの強みを生かし、カスタマイズされたデータを活用してコンテンツを制作したのだ。デジタライゼーションからフィジケーションに移り、プロダクト型ビジネスモデルも採用したのである。

コメント

デジタライゼーションを経たフィジケーションの最先端にあるのがVR(仮想現実)やAR(人工現実)といえる。同様にサービタイゼーションを経たプロダクタイゼーションの先にあるのが3Dプリンターだ。こうした先端技術が続々と登場する一方で、ライブイベントや体験型ツアーが人気を集めたりもする。新旧入り乱れた多種多様なモノやサービスが溢れる中で持続的な収益が可能なビジネスモデルを確立するのは、現段階では至難の技と言わざるを得ないだろう。だが、将来は、その時々のトレンドと個人の心理と社会意識をビッグデータから分析してビジネスモデルそのものを開発するAIが生まれる可能性もあるかもしれない。

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