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経営再建中のシャープは6月23日、大阪市内で現体制で最後となる株主総会を開催、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下に入ることを正式に決めました。その「独裁者」ぶりが日本でも知られるようになってきた鴻海創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が、「名門復活」に向けてどのような采配をふるうのか、注目されるところです。

 日本有数のエレクトロニクス企業として数々の優秀な製品を世に送り出してきたシャープは、1935年「早川金属工業株式会社」として産声をあげました。その後、電子レンジや電卓、太陽電池などの開発で他社をリードしていきます。

 そんなシャープの快進撃を担った中心人物の一人が“伝説のエンジニア”佐々木正さんです。神戸工業を経て1964年にシャープ(当時は早川電機)に入社した佐々木さんは、電卓の開発・小型化に取り組み、当時カシオやオムロンなどとの間で繰り広げられていた「電卓戦争」に勝利、後に「電卓の父」と呼ばれることになります。

 現在101歳になる佐々木さんの業績とその波乱万丈の生涯は、大西康之著『ロケット・ササキ』(新潮社)で知ることができます。高校3年の頃に当時暮らしていた台湾の地で身につけた「共創」の精神を貫き、孫正義ソフトバンク社長を見出し、スティーブ・ジョブズに大きな影響を与えるなど、国内外に豊かな人脈を築いていた佐々木さん。それに加え、共同開発をしていた米国人エンジニアをして「ロケット・ササキ」と言わしめた爆発的な着想力を武器に「電子立国日本」の礎を築いていきました。

 副社長まで務めた佐々木さんが経営の第一線から退いた後、「共創」の精神を忘れたシャープは、“迷走”を始めたと言われています。液晶事業の「オンリーワン」で「ブラックボックス戦略」をとり、やがて競合企業に敗れ経営難に陥ることに。そこで液晶技術の獲得を狙う鴻海が手を差し伸べたことは周知の通りです。

 買収後のシャープはどうなるのでしょうか? 2014年2月に台湾で出版された『鴻海帝国的背後機密』(超邁文化国際有限公司;邦訳は翔泳社より2016年8月に刊行予定)に、鴻海の創業時からの歩みと、郭台銘会長のリーダーシップ、成功戦略の数々が描かれています。

 同書を読む限り、郭会長の経営者像は、佐々木さんとはまったく異なると言っていいでしょう。奇しくも自身が高校時代までを過ごした台湾の企業の傘下に入ったシャープを、佐々木さんはどんな目で見つめているのでしょうか?


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ロケット・ササキ』 大西 康之 著  (新潮社)

鴻海帝国の秘密 郭台銘(テリー・ゴウ)の成長戦略』(原題:鴻海帝国的背後機密)(海外書籍:台湾)王 樵一 著  (超邁文化国際有限公司)

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