ジェイク・ナップ/ジョン・ゼラツキー/ブレイデン・コウィッツ 著 | 櫻井 祐子 | ダイヤモンド社 | 360p | 1,600円(税別)

はじめに 時間を最大限に活用する合理的な方法
INTRODUCTION スプリントとは何か?
SET THE STAGE 準備をする
MONDAY 目標を固める
TUESDAY 思考を発散させる
WEDNESDAY ベストを決める
THURSDAY 幻想をつくる
FRIDAY  テストをする
おわりに 「仕事のやり方」が根本的に変わる
付録 チェックリスト&FAQ

【要旨】世界でもっとも先端的な企業の一つにグーグルを挙げるのに異論のある人は少ないだろう。次々に繰り出す新技術やアイデア、製品・サービスの他にも、創造性や生産性を最大限に高めるユニークな仕事術や職場環境、マインドフルネスをはじめとするエクササイズなどが、しばしばメディアで取りざたされる。本書で取り上げられるのは、「スプリント」と名づけられたデザインや商品・サービス開発、意思決定のメソッドである。5日間の集中セッションによるグループワークで、ゼロからプロトタイプ(試作品)の実地テストまでを行う“最速”のプロセスであり、主にスタートアップの支援を行うグーグル・ベンチャーズ(GV)で実践されている。本書では、スプリントの生みの親であるジェイク・ナップ氏と、GVで彼とともにスタートアップでのアイデア実現のためのスプリント活用を進めた2人が、自らスプリントについて具体的かつ詳細に解説している。


ブレーンストーミングではベストの成果を生み出せない

 2007年に僕はグーグルに仕事を得たのだが、初めのころはエンジニアのチームとブレーンストーミングのワークショップをやっていた。ある日ブレーンストーミングの最中に、一人のエンジニアがみんなをさえぎって爆弾発言をした。「ブレーンストーミングは本当に効果があるのかい?」。過去のワークショップの結果を見直してみると、ある問題に気づいた。ワークショップのあとで実行に移され、成功したアイデアは、喧々囂々(けんけんごうごう)のブレーンストーミングで生み出されたものではなかったのだ。

 そこでブレーンストーミングの手法を、自分の仕事のやり方と比べてみた。自分がベストの仕事をできたのは、大きな課題に十分とはいえない時間でとりくんだときだった。

 いったいなにがちがっていたのか? 一つめとして、集団ブレーンストーミングとはちがい、1人でアイデアを練る時間があった。でも時間がありあまっていたわけじゃない。締切に追われ、いやでも集中せざるを得なかった。普段やりがちなように細かく考えすぎたり、重要度の低い仕事に手を出す暇はなかった。もう一つの重要な要素は、人だ。エンジニア、プロダクトマネジャー、デザイナーの全員が同じ部屋にそろい、それぞれが問題の担当部分にとりくみ、お互いの質問に進んで答えた。

 こういった魔法の要素――個別の作業、プロトタイプ(※試作品)作成の時間、逃れられない締切――をワークショップに加えたらどうなるだろう? こうして開発したプロセスを、デザインの短距離走として、「スプリント」と名づけた。


「7人以下」の人数で月から金の5日間、全力で集中する

 「スプリント」とは、グーグル・ベンチャーズ(GV)が活用しているプロセスで、アイデアをプロトタイプのかたちにすばやく落とし込み、それを顧客とテストすることによって、たった5日間で重要な問題に答えを出す手法をいう。スプリントを行うスタートアップは、堂々めぐりの議論をすっ飛ばして、たった1週間で数か月分の仕事をやってのける。

 GVはファンデーション・メディシン(高度ながん遺伝子検査の企業)、ネスト(スマート家電のメーカー)、ブルーボトルコーヒー(もちろん、コーヒーのメーカー)などの会社とスプリントを行ってきた。新規事業の実行可能性を評価したり、新しい携帯用アプリの初期バージョンをつくったり、数百万のユーザーがいる製品を改良したり、マーケティング戦略を決定したり、医療検査報告書をデザインしたりするのに、スプリントを活用している。

 スプリントは、月曜日に問題を洗い出して、どの重要部分に照準を合わせるかを決める。
 火曜日に多くのソリューションを紙にスケッチする。
 水曜日に最高のソリューションを選ぶという困難な決定を下し、アイデアを検証可能な仮説のかたちに変える。
 木曜日にリアルなプロトタイプを完成させる。
 金曜日に、本物の生身の人間でそれをテストする。

 スプリントはとくに次のような厄介な状況で役に立つ。
(1)リスクが高いとき。大きな問題を抱えていて、解決するのに莫大な時間とコストがかかるとき。あなたは大型船の船長だ。スプリントは、全力前進する前に航海図を確かめ、正しい方向へ舵を切るチャンスになる。
(2)時間が足りないとき。スプリントはその名の示す通り、高速化のためのプロセスだ。
(3)何から手をつけていいかわからないとき。重要なプロジェクトには、どこから始めていいかわからないものもあるし、始めたはいいが途中で失速するものもある。そんなとき、スプリントは補助推進ロケットになる。問題解決に対する新鮮なアプローチにより、重力の支配を抜け出せる。

 大きすぎてスプリントで扱えないような問題はない。そういいきれる大きな理由が2つある。1つには、チームはスプリントを行うことで、最も緊急性の高い質問にいやでも集中するようになる。2つめとして、スプリントでは完成品の「外見」だけをつくって学習できるからだ。

 外見は重要だ。なぜなら外見は製品/サービスと顧客の接点だからだ。人間は複雑で気まぐれだから、いままでにない新しい状況でどんな反応が返ってくるかは予測できない。新しいアイデアが失敗する原因は、顧客がわかってくれるはず、気に入ってくれるはずだという過信にあることが多い。外見さえきっちりつくっておけば、そこから逆算して、必要なシステムや技術を考えることができる。

 僕らの経験からいうと、スプリントの理想的な人数は7人以下だ。8人や9人、それ以上になると進行が滞り、全員の集中力と生産性を保てなくなる。

 スプリントチームは月曜日から木曜日の午前10時から17時まで、同じ部屋ですごさなくてはならない。金曜日のテストは少し早い午前9時から始める。なぜ5日間なのか? 5日間という期間には、焦点を絞り、無駄な議論を避けることを促す緊迫感と、燃え尽きるまで働かなくてもプロトタイプをつくってテストできる余裕がある。スプリントルームでは全員がスプリントの課題に全力で集中する。

8分間で8つのアイデアをスケッチする「クレイジー8」

 火曜日に描くスケッチは、スプリントの残りの作業の原動力になる。水曜日には全員のスケッチを品評してベストなものを選ぶ。木曜日にスケッチをプロトタイプに落とし込み、金曜日にそれを顧客と一緒にテストする。

 スプリントを始めたころ、それまで自分がやったなかで最も成功したワークセッションを再現しようとした。最もよい仕事ができたのは、まず重要な情報を見直すことによって自分自身を「起動」し、それから紙上でデザイン作業を開始し、複数のバリエーションを検討し、時間をかけて綿密なソリューションを編み出したときだった。

 「4段階スケッチ」は、いまあげた重要な要素をすべて盛り込んだものだ。まず最初に、部屋中に貼り出されている目標や機会、インスピレーションを見てメモをとり、20分間で自分を「起動」する。それから20分間で大まかなアイデアを書き出す。次は頭を柔らかくして、「クレイジー8」と呼ばれるラピッドスケッチ(速描き)で、アイデアのバリエーションを考え出す。そして最後に、30分かそれ以上かけてソリューションスケッチを描く。

 クレイジー8は駆け足のエクササイズだ。各自が自分の最強のアイデアのバリエーションを8分間で8つ考え、すばやくスケッチする。
 まずA4の用紙を3回、半分折りにして、8つのスペースに分ける。それからタイマーを60秒にセットし、「スタート」ボタンを押したらスケッチを始めよう。1つのスペースを60秒間で埋め、8分間で合計8つのミニスケッチを描く。すばやく大ざっぱに描いていく。

 ソリューションスケッチとは、各自の最高のアイデアを紙にくわしく描き表したものをいう。具体的にいうと、スケッチとは顧客が製品/サービスを利用するときに目にするものを表す3コマのストーリーボード(絵コンテ)で、1コマを1枚のふせんに描く。なぜストーリーボードの形式にするかといえば、製品/サービスはスナップショットというより映画に近いからだ。顧客は一つのシーンを演じる役者のように、ソリューションのなかを動き回るのだ。

 1人が1つのソリューションスケッチを責任をもって仕上げる。全員が描き終わったらソリューションスケッチを回収するが、目を通したい衝動をこらえよう。初めて見られるのは一度きりだから、水曜日まで新鮮な目をとっておこう。

コメント

スプリントの最大のポイントは、「個別作業」の重視にあるのではないだろうか。スプリントでは、ブレーンストーミングのように初めから集団でアイデアを生み出そうとするのではなく、(火曜日に)各自が個別にスケッチを作成、(水曜日に)それを持ち寄り、スピーディに品評、選択を行う。『内向型人間の時代』(講談社)の著者スーザン・ケイン氏は、2012年3月のTEDトークで、アップル共同創業者スティーブ・ウォズニアックなどの例を挙げながら孤独な作業の重要性を強調している。ウォズニアックが初期のアップルのコンピュータを一人で開発し、それをもとにジョブズと共同作業をしたように、個別作業とグループワークを巧みに組み合わせることが、効率よく質の高いアウトプットをするコツなのだろう。『賢い組織は「みんな」で決める』(NTT出版)に詳しいが、集団の持つ力を過信せずに、同調圧力などを警戒することが大切といえる。

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