落合 陽一 著 | 大和書房 | 200p | 1,300円(税別)

プロローグ インターネットの身体化から、シンギュラリティ前夜へ
1.超AI時代の「生き方」
2.超AI時代の「働き方」
3.超AI時代の「生活習慣」
エピローグ ユビキタス社会からデジタルネイチャーへ

【要旨】インターネット、SNS、AI、IoT、そしてVRやARなど、次々と新しいデジタル技術やその関連サービスが登場、普及する現代。それに伴い、人々の意識や考え方、生活の仕方や働き方、生き方が変わらないという方が無理があるだろう。では、具体的にどのように変化する、あるいは変えていけばいいのか。本書では、今やメディアで引っ張りだこの若き天才研究者が、この問題について各々が考えるヒントを提供している。AIの進化によるシンギュラリティ間近な現代と近未来を「超AI時代」と名づけ、その時代性を読み解くとともに、必要とされるスキルやマインドセットを解説。著者は筑波大学助教でデジタルネイチャー研究室を主宰する。メディアアーティストとして活躍し、VRコンソーシアム理事、一般社団法人未踏理事、電通ISIDメディアアルケミスト、博報堂プロダクツフェローなど多数の肩書きを持つ。


「人間らしいクリエイティブな仕事」ができるのはアメリカだけ

 将来、人工知能に職が奪われたら人間はどうやって暮らしていったらいいですか? ベーシックインカムが導入されて働かなくてよくなるから好きなことをして暮らせばいいんですか? こういった質問を講演するたびに受けた。これに対して、僕は次のように述べてきた。

『インターネットは新たな産業を多数生み出したが、その多くは情報化と脱物質化、機械化によるコストカットであり、特殊技能や特権価値の民主化であった。それによって産業の一部は衰退し、一部は大きくなった。しかし、日本について考えれば、世界を制するようなソフトウェアプラットフォームを持っていない。これはつまり、一方的に私たちの国の持つ特権は他国に対して「民主化」されてしまう』

『では、この世界のどこにベーシックインカムで暮らせるローカルが存在するか。それはアメリカにある。クリエイティブな活動をすることで余暇を潰すことで生きていくような世界は、そしてそれを可能にするほどの富が集まる場所は、そこにしかないだろう。他のローカルでは機械の歯車として人間も働き続けるのだ。富を生み出すために、インターネットの端末に混ざって生きていかなければならない。少なくとも日本ローカルに暮らす私たちは、機械との親和性を高めコストとして排除されないようにうまく働くか、機械を使いこなした上で他の人間から職を奪うしかないのだ』

 日常の思考に関して、コンピュータ時代の思考ではどうなるのかを熟考してみた。そういう思考の過程でいくつもの問いが生まれてくる。働き方はどう見直されるべきか、人の過ごし方はどうやって変わっていくのか、それらのベースの考え方をどう変えるべきか。


ワークライフバランスではなくワークアズライフを

 ワークライフバランス(=仕事と生活のバランス)。今の社会に即すと、僕はこの言葉にとても違和感をおぼえる。いつでもどこでも情報と繋がり、それゆえにいつでも仕事とプライベートが混在するような世界になった今、ワークがライフでない時点で、言葉が実生活と矛盾しているのではないかと感じるわけだ。

 私たちは21世紀になり、24時間、誰とでもコミュニケーションを取れるようになった。そのおかげで、時差的なものが取っ払われてしまい、昔は寝ている時間は働かなかったし、地球の裏側の人と仕事をすることもなかったわけだが、今なら何時でも働くことが可能だ。

 今の社会において、雇用され、労働し、対価をもらうというスタイルから、好きなことで価値を生み出すスタイルに転換することのほうが重要だ。それは余暇をエンタメで潰すという意味ではなく、ライフにおいても戦略を定め、差別化した人生価値を用いて利潤を集めていくということである。

 これまでは24時間のうち、8時間は働いて、8時間は寝て、残りをどう切り分けるかということが一つの考え方だった。しかし今、その線がなくなってきてしまったので、「その切り分けのない状態で、なるべくストレスなく動くにはどうしたらいいのだろう?」ということがより重要になった。ストレスマネジメントの考え方である。

 たとえば、今の時代であれば、1日4回寝て、4時間おきに仕事しても生きていける。そういった時代背景は、グローバル化とインターネット化と通信インフラの整備によって、ワークライフバランスという言葉は崩壊したことを意味している。これからは「ワーク“アズ”ライフ」、つまり差別化した人生価値を仕事と仕事以外の両方で生み出し続ける方法を見つけられたものが生き残る時代だ。


コミュニティを作って「自分の道」を“淡々と”進むのが重要

 「人間が人間らしく生きる」という概念は、近代になって発達した概念だ。そして、私たちが今、新しいパラダイムに差し掛かっているというのは間違いない。主体的であるという人間性、自ら思考するゆえに人間であるという考え方は、近代以降に獲得されたものなので、今、次の主体なき人類の時代に移ってきているとも言えるわけだ。

 全員が全員、平等にインターネットの端末で繋がったときに、主体じゃなく相対を意識した考え方に移ってくるだろう。もしくは、主体が得られる程度に人間の属するコミュニティが分割されるかもしれない。というのも、一人一人が責任感を感じられるレベルは、だいたい30人くらいが限度だと言われている。

 全世界の他のすべての人と比べて「自分らしい」というのと、あるコミュニティの中で「自分らしい」というのを比べると、後者のほうはすぐに実現可能だから、人はコミュニティに逃げ込みやすい。一度枠でくくってしまえば、おのずと特徴が出てくるからだ。

 どこかにコミュニティを作って、そこで自分らしければいいのではないかという「世界を狭める考え方」をすれば、自分らしさが定義できる。つまり、コミュニティを決めるほうが自分らしさを探すことよりも重要なのかもしれない。また、戦略的にはコミュニティを探すのではなく、コミュニティを作る発想が重要であるのは、ブルーオーシャン戦略の基本である。

 今、私たちは、多様化した社会に向かって、違う方向に生存戦略を進めている。たとえば、研究でもそうだが、全員が全員、違う方向に向かってやっていることに広い視点で意味がある。音楽業界でも、ミュージシャンそれぞれが何かで1位を取っていれば、全員が違う方向を向いて全体の多様性が担保されていくわけだ。それらは、特定の1個のパイを奪い合うのではなく、パイをどうやって広げようか、という超AI時代の人間全体の生存戦略だ。

 そうした中では、「淡々とやること」というのが、すごく重要になる。「自分は自分の道を信じてやらないといけないし、他人は関係ない」ということだ。今まで言われていきた、「自分は自分の道を行く」というのは、競争の上でどういうキャラクターを付けていくかという話だった。しかし今、その意味ではまったくなく、これからやらないといけないことは、全員が全員、違う方向に向かってやっていくことを当たり前に思うということだ。つまり一人一人がブルーオーシャンな考え方をしなくてはいけない。

 ここで重要なのは、「競争をする」というゲームが決まると、データさえあれば機械のほうが強くなるということだ。機械はデータから計算可能なので機械のほうが強くなる。それはチェスや将棋の例を見ると明らかだ。けれど、ブルーオーシャンの考え方で、何をやるかが決まっていない状況では人間は機械に十分に勝てるということだ。


「ざっくりとフックがかかっている」知識の持ち方が理想

 暗記するためにノートにひたすら書いたり、何回も唱え続けたりすることはないけれど、ざっくりとフックがかかっている状態、おぼろげにリンクが付いているような状態が、これからの時代に理想的な知識の持ち方だと思う。

 この感覚は、これから必要な創造性にとって、もっとも重要な状態になっていると思う。つまり、「2つのものが抽象的なイメージで合わさったら、どういう答えになるんだろう?」というように、おぼろげなものが重なることによって、人間にしかできない想像力が出てくるのだ。

 あらゆるものを、「ググればわかる」というレベルの状態で頭の中に保持しておく知識の付け方がすごく重要だ。そのためには、「一度は自分で解いてみたことがある」という状態がベストで、「ただ、頻繁に使用してはいないから、あまり詳しいことはわからないんだけど……」という状態が実は理想なのだ。専門的なことは一度すべて大学で習ったり、専門書を読んだりしたことはあるけれど、完全には覚えていない、というフックがかかった状態を目指そう。


コメント

著者の落合陽一氏は父親であるジャーナリスト・落合信彦氏の影響で、幼い頃からドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作などを読みふけっていたそうだ。とくに本書の「自分らしさ」に関する論考に、ニーチェの思想の足跡を見てとれるのではないだろうか。ニーチェは、キリスト教の神など既存の外在的な概念・価値観を否定し、その上で自らの実存を探るべきとした。落合氏も、競争のルールなど外在的基準から逃れて自分でコミュニティを作り、その上で「自分らしさ」を探るべき、と主張している。競争のルールが目まぐるしく変わる現代や近未来では、落合氏の言うようなかたちで自分らしさを見つけていくしか方法がないのかもしれない。変化に「対応」するのではなく、変化を受け入れた上で、流されないための自分らしさを見いだすことが、有効な「生存戦略」になるのだろう。

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