【新刊】徳重徹が国内事業と同時に海外展開を始めた理由【ダイジェスト全文掲載】
ビジネス
2025.07.16
『常識を逸脱せよ。』
-日本発「グローバルメガベンチャー」へ テラドローン・徳重徹の流儀
山口 雅之 著 | プレジデント社 | 192p | 1,870円(税込)
1.Foresight 世界で勝つビジネスを見極める執念と観察眼
2.Bravery やると決めたら突き抜ける胆力
3.Toughness 99%不可能なM&Aを実現した交渉力
4.Challenge 低空域経済圏の覇者となるために
【イントロダクション】
土木、物流、農業といったさまざまな業界における効率化や人手不足への対応に資する技術として、国内外で「ドローン」に期待が集まっている。
ドローンビジネスの可能性にいち早く着目し起業、驚くべきスピードで成長を遂げ、2024年11月に東証グロース市場上場を果たしたベンチャーが「テラドローン(Terra Drone)」である。
本書は、今、注目すべき起業家の一人といえる、テラドローン創業者で代表取締役社長の徳重徹氏による、ドローンビジネスに出合ってからの戦略や行動、ポリシーや経営哲学を、本人と関係者への取材により詳らかにしている。
徳重氏は1970年山口県生まれ。住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)で商品企画・経営企画を担当した後、2000年に米国でMBAを取得、現地でベンチャー企業の支援会社を立ち上げる。帰国後、電動二輪・電動三輪の開発・製造・販売を手がけるテラモーターズ(Terra Motors)を起業。2016年にテラドローンを設立した。
著者はフリーライターとしてビジネス・経済誌を中心に活動中。多数の単行本の執筆のほか、映像台本も手掛ける。
「日本発のメガベンチャー」を目標に黎明期のドローンに目をつける
日本発のメガベンチャー。徳重徹はしばしばこの言葉を口にする。
バブル崩壊以降この国はどんどん活力を失いつつある。それは、日本にイーロン・マスクやジェフ・ベゾスのようなロールモデルがいないからだ。だったら自分が世界を変えるようなメガベンチャーを創る。それを見れば日本人は必ず覚醒する。この怒りと苛立ちが徳重のモチベーションなのだ。
自分はこれが得意だとか、手持ちの資源でできるのはこの範囲とか、そんなのは関係ない。世界を変えるくらいの大風が吹くテーマが見つかればそれをやるまで。
「ドローンに出合ったのは、本当に偶然です。アニス・ウッザマンというシリコンバレーのベンチャーキャピタルに勤めている古くからの友人がいます。あるときその彼に、これから来そうなビジネスのテーマを尋ねると『ドローンというおもしろいテクノロジーがある』と教えてくれたのです。さらに、ドローンを建築現場の測量に利用している会社が日本にあるということも教えてくれました。それで、とりあえずこの目で見てみることにしたのです」(徳重徹、以下同)
徳重はすぐに連絡を入れると、翌日にはもう件の会社が本社を構える山形市にいた。山形県山形市に本社を構えるリカノスは、当時社員10余名の小企業ながら、ゼネコン大手の鹿島建設と共同でドローンによる写真測量のシステムを開発していた。
徳重は、創業者でいまも社長を務める平慶幸のところに足しげく通うようになる。
「私はドローンも土木も素人でしたが、調べてみるといろいろなことがわかってきました。大規模建設現場では、工事の施工管理や進捗状況を把握するため地形の測量が不可欠です。そして、これには膨大な手間と時間がかかっていました。しかも、大型重機が稼働している中での作業ですから、常に危険と隣り合わせなのです。私も実際に何度か現場に足を運び、測量がいかに属人的でローテクの作業かということを自分の目で確認しました。
インフラ設備の老朽化という問題もあります。ただでさえ少子化で人手が足りないなか、膨大な保守点検業務をこなすには、AIを搭載したドローンの活用が不可欠なのはいうまでもありません。
さらに、それまで人間がやっていたことをドローンに置き換えることで効率化や省エネ化を図れる分野が、測量や点検以外にも、いくつも見つかりました。これまで人がやっていたことを、速く安く安全にできるとわかれば、ドローンの導入を躊躇する理由はないじゃないですか」
何の知識もない状態で平を電撃訪問してから3カ月後、徳重はドローンを次の事業テーマにすることを決断する。さらに、その半年後には、平を巻き込んでテラドローンを設立する。
「調べてみると、この先ドローン本体は価格が下がって入手しやすくなる一方で、ソフトウェアの開発が進み、用途や使い道が無限に広がるという未来が見えてきました。それで、わかったのです。これってパソコンと同じだって。
2015年の段階では、ドローンはハードの開発が先行していて、これを何に使うか、ドローンでどんな社会課題が解決できるかというソフトウェアの分野はまさにこれからというところでした。ドローンを活用したソリューションビジネスは未開の地。いま始めれば十分先行者利益を手にすることができると踏んだのです」
国内事業を立ち上げてすぐにM&Aを念頭に海外展開を始める
徳重はテラドローン立ち上げの記者会見で、今後はグローバル市場も視野に入れていると説明した。
この記者会見には約50人の報道陣が集まった。まず国内で実績をつくって新会社の土台を固め信用を高めたら、そこから満を持して海外に打って出る。おそらくみなそういうイメージを抱いたのではなかろうか。
「極端なことを言えば、IPOが目的なら、国内の土木測量やインフラ点検に特化しても可能だったと思います。でも、私がドローン事業を始めたのは、世界で勝てる日本発のメガベンチャーになるため。まずは日本で成功を収め、さあ、次は海外進出という順番では時間がかかりすぎる。世界で勝てるチャンスを逃してしまいます。
テラドローンには優秀な人間が集まったので、創業当初から国内の土木測量は彼らに任せて、私は次の柱を探しに海外を飛び回っていました。インターネットでドローン関連のレポートを探して、アンテナに引っかかったらホームページやLinkedInを通じてアプローチ、アポイントメントが取れればすぐに会いにいく。
ドローンを使ったソリューションは、どこの国でもまだ始まったばかりでした。それから、ドローンでどんな課題を解決しようとしているかは、地域によってかなり違いがあることもわかりました。インドネシアは農業、オランダだと天然資源のタンクの点検、ロシアならパイプラインの調査というように、ドローンを活用する用途が異なるのです。
それはつまり、ローカライズを念頭に置いて戦略を立てることが重要だということにほかなりません。それで各国の市場を押さえていけば、世界のトップに立てる。このとき私の頭にあったのはAmazonです。Amazonは買収で大きくなったのです。それも、ZapposやWhole Foods Marketのようなトップ企業を積極的に買収している。
ドローンで地域一番の会社をM&Aで取り込んでグループ化し、育てていく。黎明期のいまなら、できないことはありません。そうすれば数年後には世界ナンバーワンになれる。だから、どの国に行ってもドローン事業のトップ3とは必ず会うようにしました。
私はいつも単身で現地に行くし、その場でどんどん決めるので、やりやすいと喜ばれます。とにかく、海外で交渉や商談をする際に、意思決定が早いのはそれだけでかなりのアドバンテージになるということを、日本人はもっと知るべきです。
石橋は叩かずに駆け抜ける。橋が崩れて川に落ちたところでどうということはありません。そこからまた泳ぎ出せばいいのです」
低空域経済圏のグローバルプラットフォーマーをめざす
テラドローンという社名から、同社をドローンの製造・販売会社と思い込んでいる人も多いかもしれない。だが、設立時から徳重はメーカーは目指していない。ドローンによる社会課題の解決というソリューションビジネス、それからドローンや空飛ぶクルマの運航管理を行うUTM。現在のところ主要事業はこの2つだ。
UTMとはUnmanned Aircraft System Traffic Managementの略で、要するに「無人機運航管理システム」のことだ。飛行機やヘリコプターなどの有人機は、ATM(Air Traffic Management)と呼ばれる航空交通管理システムのもとで運航が管理されている。一方で、ドローンなどの無人機には、同様の仕組みがまだ確立されておらず、各国・地域で運航管理システムの研究開発や実証実験、制度整備から社会実装に向けた取り組みが進められている段階だ。
「ドローン事業の本丸はUTMだと私は考えています。今後ドローンや空飛ぶクルマの数が爆発的に増えるのは必至。そうなると空の安全を守るための体制を整えなければならなくなります。
(*テラドローンが連結子会社化したベルギー企業)Uniflyはカナダ、スペイン、ドイツ、ベルギーなど8カ国にUTMシステムの提供実績を持ち、この分野におけるリーディングカンパニーのひとつです。そして、アメリカにおけるUTM市場で圧倒的なシェアを誇るのが、2015年に設立されたAloft Technologiesです。私はこのAloft Technologiesをターゲットに定めて、2023年3月に株式シェア35%の取得に成功しました。
私たちはUniflyとAloft Technologiesを通じて、グローバルとアメリカ、双方の市場にアプローチできるようになっています」
徳重の野望がだんだんと鮮明になってきた。世界の低空域経済圏を掌握しようというのだ。
「私たちは低空域をもっとビジーにしなければならないし、もっとUTMの完成度を高めていきます。宇宙開発はイーロン・マスクに任せましょう。私が目指すのはあくまで低空域経済圏のグローバルプラットフォーマーです」
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
コメント
徳重氏の、ビジネスにおけるほぼすべての行動や、テラドローンの事業展開から感じられる「圧倒的なスピード感」は、明治維新前夜、幕末の志士たちが日本を変えるべく奮闘したのが、わずか14年ほどだったことを思い起こさせる。そして、志士たちと徳重氏に共通するのは「強い意志」と、明確な目標に向けて「行動に躊躇しない」といったことだろう。本文にある「石橋は叩かずに駆け抜ける」というポリシーも同じに思える。徳重氏は事業計画書をつくらないというが、現代や幕末のような先行き不透明な時代に、新しいことをなすには「綿密な事前計画」など必要ない。起業の考え方ややり方は人それぞれだが、徳重氏のそれは、現代において有効なものの一つと言っていいのかもしれない。
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