Stefan Stern, Sir Cary Cooper 著 | Kogan Page | 240p

神話1 社員を管理する方法はひとつだけ
神話2 タフでなければトップになれない
神話3 長時間労働こそ成功への道
神話4 弱さや迷いを部下に示すな
神話5 トップとは孤独なもの
神話6 最も賢い人間であれ
神話7 ヒエラルキーは過去のもの
神話8 一貫性が必要不可欠
神話9 組織に合う人を採用する
神話10 マネジメントよりリーダーシップが大切
神話11 適材を得るには高額な報酬が必要
神話12 年次評価は社員管理に役立つ
神話13 情報は管理し、時には制限すべき
他、全44の神話

 マネジメントは企業の燃料とも言えるヒト、カネ、モノを巧みに動かす仕事であり、企業や組織の方向性や行く末を決定づける生命線でもある。そんなマネジメントに関しては、一般に信じられているステレオタイプの「神話」が多数ある。「社員全員をたくさん(長時間)働かせれば、それだけ業績が上がる」「硬直的な上下関係、ヒエラルキーは時代遅れであり、フラットな組織が望ましい」「仕事に感情を持ち込んではいけない」といったものだ。本書では、そういった神話を44取り上げ、その誤りを正し、幻想を振り払う。それらによって、マネジメントの本質が見えてくるはずだ。著者のStefan Sternはシティ大学カス・ビジネス・スクール客員教授で、『ガーディアン』や『ファイナンシャル・タイムズ』に寄稿している。Sir Cary Cooperはマンチェスター大学アライアンス・マンチェスター・ビジネススクール教授。


環境が変化しても大きく変わらないマネジメントの基本

 ロンドン・ビジネススクールのジュリアン・バークショー教授は、ビジネスモデルを持つ企業はもちろん多いが、「マネジメントモデル」を有する企業はほとんど存在しないのではないか、と著書『Reinventing Management』の中で言っている。確かに、どのようにマネジメントを行うか、という社内共通の理論や認識がある会社など、聞いたことがない。

 スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は、世界中の企業8,000社を対象に、マネジメントに関する調査、World Management Survey(WMS)を行なった。同調査でマネジメントが想定するレベルに達しているかどうかを自己評価してもらったところ、全体の79%の企業が「中位より上」と応えた。だが、さまざまな指標で専門家が客観的に評価すると、米国の企業で15%、それ以外の国・地域の企業では5%しか「中位より上」にはならなかった。ほとんどの企業が、自分たちが思っている以上に、マネジメントが「できていない」のだ。

 英国では国全体の生産性向上が課題となっている。英国はフランスよりも20%生産性が低い。ということは、単純計算では英国が週休2日でこなす仕事を、フランスでは週休3日で完遂できることになる。一人ひとりの労働者が、効率よく、生産性の高い仕事をするには、そうさせるためのリーダーのマネジメントが欠かせない。

 しかし、マネジメントをスムーズに行うのは簡単ではない。なぜなら、労働者も雇用者も「マネジメント」という言葉にあまり良いイメージを持っていないからだ。まるで喜劇のように、マネジメントが行き届かず部下が思うように動いてくれなかったり、逆に部下が上司に振り回されたりするケースは、どの会社でも決して珍しいものではないだろう。

 テクノロジーの進化をはじめとする環境変化に伴い、ビジネスモデルも変わっていく。だが、マネジメントはさほど影響は受けない。なぜならマネジメントは人間を相手にするという側面が大きいからだ。人のマネジメントは、人を理解し、鼓舞し、能力を伸ばし、啓発するものである。その基本は変わりようがない。もし誰かが「まったく新しいマネジメントの概念」があると言ってきたら、まず眉に唾をつけたほうがよさそうだ。

ヒエラルキーは「時代遅れ」とは限らない

 「ドント・トラスト・オーバー・サーティ(30歳以上は信用するな)」という言葉が1960年代に流行った。若者特有の上の世代への反抗心、権威や権力、上下関係・ヒエラルキーへの反発を表現した言葉と言える。これは、その時代にはそれだけ強固なヒエラルキーが常識的にあったことを示している。

 だが、それも今は昔。今日では、ヒエラルキーは前世紀の遺物として、忌み嫌われている。固定的な上下関係にはたくさんの弊害があると一般的に信じられている。

 ヒエラルキーに代わる組織のあり方として「ホラクラシー」を取り入れる企業もある。ホラクラシーは非階層の分散型システム。階層は一切なく、社員には階層に見合った「役職」や「肩書き」ではなく「役割」が与えられる。しかし、ホラクシーは現時点で注目されてはいるものの、どれだけ定着するかは未知数である。

 ロンドン・ビジネススクールのジョン・ハント教授は「人と人が出会えば、そこに階層が生まれる」と言っている。たとえば法律事務所や会計事務所はたいていパートナー制が取られている。名目上パートナー同士は対等だ。しかし実情は、優秀で事務所の収益に貢献するパートナーの発言力が自然と大きくなるのが常だ。実質上貢献度による上下関係ができてしまうのだ。

 1980年代初頭に世界を襲った同時不況により、多くの企業が人員削減を行う羽目になった。その際、しばしば特定の階層が狙い撃ちされた。ディレイヤリングという手法で、一つの階層(レイヤー)そのものが除去された。A→B→Cという階層構造があったとしたら、Bを除去し(Bに属する社員をリストラし)A→Cにする。

 除去すると言ってもその階層全員が抜けるわけではないので、階層の数が減れば、一つの階層の人数が増える。そうすると許容量を超えてしまい、マネジメントが行き渡らなくなったりする。産業福祉協会のジョン・ガーネットは、マネジメントの適正人数はせいぜい12人だと主張している。

 つまり、階層は真っ当なマネジメントのためにはある程度必要なのだ。ヒエラルキーは「過去のもの」「なくしていくべきもの」という考えは、必ずしも正しくない。マネジメントに関して信じられている「神話」の一つにすぎないのだ。

戦略を策定した“だけ”では意味がない

 「戦略(ストラテジー)」の語源は(諸説あるが)ギリシャ語で「将軍」を意味するストラテゴスである。ストラテゴスたちが戦いに勝つための計画を練ることが、現代の戦略という言葉に転じたのだろう。

 つまり戦略はそもそも実戦のためのものであり、策定するだけでは意味がない。だが、現代の企業のリーダーは、ともするとカッコ良い専門用語で飾り立てた事業計画を作ることが戦略策定と考えている節がある。いくら体裁の整った、論理的な戦略が作られたとしても、それがスローガンだけで終わってはまったく意味がない。

 戦略は実行されなければならない。トニー・ブレア元英国首相の首席報道官を務めたアリスター・キャンベルは、戦略とは実行計画であり、理論を披露するものではないと言っている。どんなに素晴らしい戦略でも正しく実行されなければ意味がなく、たとえ平凡な戦略でも実行されれば多かれ少なかれ役に立つのだ。戦略を立てる“だけ”では、戦場でもビジネスの現場でも、勝つのは難しいのだ。

「仕事に感情を持ち込むな」は必ずしも正しくない

 職場で感情をあらわにするのは、極力避けるべきだというのが、企業の暗黙の了解の一つといえよう。やたらと感情的になる人間は、ビジネスパーソンとしては失格だし、信頼もされない。バランスシートなど社内の書類の多くは数字の集合体であり、情緒のかけらもない。処理するのに感情が入り込む余地はまったくない。だが、本当にビジネスに感情は不要なのだろうか。

 2006年、米国・シカゴのノースウェスタン大学の卒業式で、ある若きイリノイ州選出の上院議員が祝辞を述べた。彼の名はバラク・オバマ。祝辞で彼は、「共感」の持つ力を強調した。

 適度な共感は、社員同士のつながりを強化し、企業文化を育む。しかし、共感が蔓延しすぎると、業務に支障が出かねない。イェール大学教授のポール・グルームは、共感しすぎる医者は時として患者の対処法を誤る可能性があると指摘する。

 これは、仕事に共感や感情の要素がまったく不要であるということではない。確かに過度の共感は、冷静で客観的なものの見方が要求される仕事には邪魔になる。しかし、たとえばサービス業のような人と接する仕事は共感力が大きな武器になろう。同様に、人を相手にする「マネジメント」にも共感は役立つ。

 人がAIやロボットに違和感を感じたり反発したりするのは、「仕事が奪われる」からだけでなく、生きて呼吸をする人間の存在を職場に求めているからではないだろうか。機械を動かす術を知るマネージャーは多くても、感情面も含めた人の扱いに精通する者は少ない。しかし、職場で上司は部下の感情を理解する必要に迫られる。マネジメントには理性と感情のバランスが必要ということだ。

コメント

テクノロジーの進化などでマネジメントの基本は変わらないと著者はいうが、インターネットの影響は少なくなかったのではないか。もっとも大きいのは、ヒト・カネ・モノの他に「情報」のマネジメントの比重が高まったことだろう。情報を効率よくマネジメントするために、たとえばヒエラルキーの形態なども変わってくるはずだ。まずは自組織の特質と環境を見きわめ、ヒエラルキーの自由度をどのくらいに設定するのか、ホラクラシーの要素を取り入れるのか、などを考えていくべきだろう。

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