安斎 勇樹/塩瀬 隆之 著 | 学芸出版社 | 300p | 2,700円(税別)

序論 なぜ今、問いのデザインなのか
1.問いのデザインとは何か
2.問題を捉え直す考え方
3.課題を定義する手順
4.ワークショップのデザイン
5.ファシリテーションの技法
6.企業、地域、学校の課題を解決する


商品開発や組織改革などのアイデア創出や問題解決に「ワークショップ」を活用する組織が増えているようだ。しかし、ワークショップを上手にファシリテート(舵取り)できる人材は少ないのではないだろうか。ファシリテーションにおいては適切な「問い」を繰り返し、課題を明確にしていくことが欠かせない。本書では、ワークショップにおいて、戦略的に「問い」と「対話」をデザインするための考え方と、具体的な技法を詳しく解説している。問いや対話のデザインは、正しい答えを導いたり、思考や感情に揺さぶりをかけたりする効果的な問いを適切なタイミングで参加者に投げかける、あるいは参加者に持たせることで、創造的な対話をつくり出す。本書は、著者らの経験をはじめとする多彩な事例とともに、問題の本質を抽出し、解決可能な課題を定義する手順などを指南する。著者の安斎勇樹氏は、株式会社ミミクリデザインCEO、株式会社DONGURI CCO、東京大学大学院情報学環特任助教。塩瀬隆之氏は京都大学総合博物館准教授で、小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、両者ともワークショップを多数ファシリテートしている。


「素朴な疑問」をもとにプロジェクトの「問い」を変換

 筆者(安斎)がファシリテートした、ある自動車メーカーの「カーアクセサリー」を開発する部署のプロジェクトをご紹介しましょう。カーアクセサリーとは、自動車内外の環境を整えるための物品全般を指しており、「カーナビ」が代表的な製品で、カーオーディオやタイヤ、メンテナンス備品なども含みます。

 本プロジェクトのクライアントチームはカーナビの開発を得意としていましたが、昨今の人工知能(AI)技術の発展と普及の影響について、漠然とした不安を感じていました。人工知能の技術が普及すれば、車の運転は自動化され、ドライバーにとっては運転機会そのものが減っていくことが想定されます。そうすれば、運転を補助するカーナビの地位が揺らぐ可能性がありますから、不安を覚えることは、頷けます。

 そのような背景から、クライアントから筆者に持ちかけられた相談は、「人工知能を活用した新しいカーナビのアイデアを考えたいが、社内で企画会議を繰り返しても、良いアイデアが出ない。革新的なアイデアが生まれるように、企画会議の場(ワークショップ)をファシリテートしてほしい」というものでした。言い換えると、クライアントは「人工知能が普及した時代において、カーナビはどうすれば生き残れるか?」「人工知能を活用した新しいカーナビとは?」という問いを掲げ、それを解決しようとしていたのです。

 これに対して筆者は、この元の問いの設定では、良い答えに到達できないのではないだろうか、と考えました。なぜならば、そもそもカーアクセサリーとは、自動車単体では得られないユーザーのニーズを満たす「目的」を達成するための「手段」であったはずです。もし人工知能の普及によってカーナビが不要になるのであれば、それは社会の変化によってユーザーの目的が変容したということです。変化しつつある目的を問い直さぬまま、手段を生き残らせることが自己目的化してしまっては、本質的な課題解決にはならないのではないか、と思ったのです。

 そこで筆者は、頭に浮かんだ素朴な疑問をもとに、「カーナビは運転者だけのものなのでしょうか?」「カーナビとは、ユーザーにとってどのような存在なのですか?」「これまで何を動機にカーナビを開発してきましたか?」などと、問いをぶつけていきました。

 すると、クライアントは、「自分たちは、生活者に“快適な移動の時間”を提供したいのだ」という想いを語ってくれました。なるほどたしかに、たとえ人工知能が普及し、自動運転技術によってドライバーの運転機会が消失したとしても、生活者の「移動」の時間そのものはなくなりません。

 そこで筆者とクライアントは対話を重ね、プロジェクトの問いを「自動運転社会において、どのような移動の時間をデザインしたいか?」「その移動の時間を、自社技術を活用してどのように支援できるだろうか?」へと変更し、未来の移動の時間を支えるプロダクトを考えるワークショップを実施したのです。

 このケースでは、「自社製品(カーナビ)」から「自社技術」へと水平展開することで、関係者が「解決したい問いはこれだ」と納得できる問いへと大きく転換することができました。具体的なアイデアはご紹介できませんが、結果として、自動運転社会における移動の時間を本質的に支援できる“カーナビではない”プロダクトのアイデアがいくつも生まれました。

問題の本質を捉えるのに必要な「五つの思考法」

 問題を解決するために、どのような「問い」を通して、問題を捉えるのか。問題の背景を多角的に読み解きながら、本質を捉えて「解決すべき課題」を正しく定義することを、「課題のデザイン」といいます。

 問題の本質を捉えるために必要な考え方としては、以下の五つの思考法があります。
(1)素朴思考 (2)天邪鬼思考 (3)道具思考
(4)構造化思考 (5)哲学的思考

 一つ目の「素朴思考」とは、文字通り、問題状況に対して素朴に向き合い、問題を掘り下げていく考え方です。問題状況に対峙していてふと湧き上がった何気ない疑問を投げかけながら、問題の輪郭を掘り下げていく考え方です。

 たとえば、前述した自動車メーカーのカーアクセサリー部門の例では、以下のような具合です。「人工知能が普及すると、どうしてカーナビの市場が縮小してしまうのだろうか?」「カーナビはいつ誕生したんだろう。役割はずっと変わらないのかな?」「そもそも人工知能って、どんなものだっけ?」

 「天邪鬼思考」とは、目の前の事象を批判的に疑い、ある意味“ひねくれた視点”から物事を捉える思考法です。認識を批判的に捉え、語られていない盲点や、物事の裏側を見ることに徹します。

 「道具思考」でいう道具とは、知識や記号、ルールなど、概念的な道具のことを指します。問題の深掘りが進まなくなったと感じたときは、関連しそうな知識を参照したり、あえて異なる専門分野の考え方の枠組みを通したり、何らかの「道具」を通して別の角度から問題を捉え直してみると、また違った問題の姿が見えてくるかもしれません。

 「構造化思考」とは、問題状況を構成する要素を俯瞰し、構成要素同士の関係性について分析・整理し、問題を構造的に捉える考え方のことです。「これはなぜだろう?」「これとこれはなぜつながっているのだろう?」「本当に要素はこれだけなのだろうか?」と、構造化と並行しながら問題を形づくっている要素・関係性・輪郭を問うていきます。

 最後は、「哲学的思考」です。哲学対話と呼ばれる場においては、自らが知っていることを疑うことからすべてが始まります。自分が問題だと思っている問題、それを説明するために使っている言葉の一つ一つの意味、そしてその言葉で解決を図ろうとする集団のなかでその定義が共有できているとする思い込み、あらゆるものを疑うことが起点となるのです。

目標を「分割する」「動詞に言い換える」ことで目標を再設定する

 問題や課題とは、「目標と現状の差分」によって生み出されます。したがって、(課題のデザインにおいて)課題を定義する手順は、まず問題の当事者たちが認識している「目標」を把握するところから始めます。問題の渦中にいる当事者が、目標を適切に設定できていることはごく稀です。ゆえに、丁寧に「目標を精緻化」して整理する作業に時間をかけます。

 その上で、目標の実現を阻む「阻害要因」を検討します。さらに、目標に修正が必要であれば、目標そのものを「再設定」します。
 目標を別の視点から再設定することを、「リフレーミング」と言います。この時点で、目標の設定に問題がないように見える場合でも、試しにリフレーミングを試みてみることで、より“しっくりくる”目標の設定の仕方が見つかる可能性もあります。

 たとえば、目の前の状況には「解決すべき問題はいくつあるのか?」「問題を二つに分けるとしたら?」などと問い直してみると、意外と目標が複数に分割できたり、あるいは「分割できない何か」が見つかったりして、それがリフレーミングの手がかりになることがあります。

 また、目標に名詞型のキーワードがある場合、それを動詞型に言い換えて目標を再定義すると、視点が変わります。
例1:新しいオフィスの“椅子”のアイデアを考える → 未来のオフィスにおける「座る」を再定義する
例2:“万歩計”をリデザインする → 歩行を「はかる」をリデザインする
例3:“無線通信機”をデザインする → どこでも誰とでも「つながる」をデザインする

 そのようにして、仕上げとして、最終的に関係者が「(目標を達成するために)解決すべきだ」と合意できる課題を定義し、文章に落とし込みます。

コメント

ワークショップのファシリテーションにおける「問い」でもっとも気をつけるべきなのは「安易な“答え”や結論らしきもの」を認めないことだと思う。問いに対して「答え」らしきものが出たならば、「素朴思考」や「天邪鬼思考」による、さらなる問いを重ねていき、他の多様な「答え」のバリエーションを増やしていくのが、ファシリテーターの役割なのだろう。ワークショップのような場がないと、私たちは、なかなかじっくりと「問いを重ねる」時間を取れないのが実情だが、たとえ複数人が集まる場がなくても、各個人で時間を決めて「問いのデザイン」の実践を行う習慣をつけるのもいいのではないだろうか。

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