(原題)The Future Leader: 9 Skills and Mindsets to Succeed in the Next Decade| Jacob Morgan 著 | Wiley | 320p

1.リーダーの役割を理解する
2.未来のリーダーを形成するトレンドと課題
3.四つのマインドセット
4.五つのスキル
5.未来のリーダー


想定外の出来事が続き、未来は不透明になる一方だが、時代の大きな流れを読み、組織の中であるべきリーダーシップを考える意義は小さくない。各々のリーダーの時代に即した行動が積み重なり、より良い未来社会を作ることにつながるからだ。では、未来のリーダーシップとは、どのようなものだろうか。本書では、マスターカード、ベストバイ、ユニリーバ、オラクルなど世界20カ国35業種の企業140人以上のCEOにインタビューし、10年後を想定した「未来のリーダーシップ」に関する12の質問を投げかけた結果を分析。そこから見出された未来のリーダーが持つべき「冒険家」「シェフ」「サーバント(奉仕者)」「地球市民」という四つのマインドセットと、それらに基づく五つのスキルを提示する。インタビュー対象のCEOや、歴史上の人物などの豊富な事例を示しながら、ますます進展するグローバリゼーション、避けられないAIやITとの協働などを踏まえ、今からリーダーがどのような心構えを持ち、行動の準備をしておくべきかを明らかにしている。著者のジェイコブ・モーガン氏は、大企業における職場の改善を測る協議会であるThe Future of Work Communityの共同創立者でもある作家、講演者、フューチャリスト(未来研究者)。


世界中のCEOの発言から見出した「四つのマインドセット」

 私たちのほとんどは、この10年間で物事がどれほど変化したかに気づいていない。たとえば、金融危機の影響が鮮明に残る10年前には、多くのリーダーがいかに自社の株価を上げるかにのみ関心を抱いていた。ダイバーシティやインクルージョンへの取り組みは緒についたばかりだった。テクノロジー(とくにAI)の進歩は、今より緩やかだった。従来のヒエラルキー(階層)に捉われない組織を作ろうとする試みも一部では見られたが、まだ広がる気配は見られなかった。

 リーダーシップのあり方は、この10年で大きく変わった。ということは、10年後にあるべきリーダーシップも、現在のものとは異なるはずである。しかし、私たちの多くは、日々の業務や生活に気をとられ、将来のリーダーシップについて思案することがない。

 だが、これから私たち一人ひとりや、各企業が時代の変化に対応していくためには、10年後に求められるリーダーシップについて考えるべきだろう。そこで私は、データを集めることにした。世界20カ国、140人以上の企業CEOにインタビューを行ったのだ。対象としたのは35業種と多岐にわたる。

 インタビュー結果を分析することで、私は10年後の未来のリーダーが持つべきマインドセットとスキルを見出せた。とりわけ重要なのが、四つのマインドセットである。それらを「冒険家」「シェフ」「サーバント(奉仕者)」そして「地球市民」と名づけることにする。

 マインドセットとは、行動に影響するものの考え方であり、リーダーとしての信念ともいえる。マインドセットは、行動の端々に現れるため、ごまかしが効かない。本来自分のものではないマインドセットを装ったとしても、メンバーに見抜かれ、信頼を失うことだろう。

強靭な意志と好奇心を持ち、オープンマインドな「冒険家」

 まず「冒険家」のマインドセットを説明しよう。歴史上、冒険家と呼ばれた人たちは、いずれも未知へ挑む者だが、すべての冒険家が「リーダー」であったわけではない。だが、アーネスト・シャクルトンは紛れもないリーダーだった。彼は1914年、南極探検隊を結成し、南極大陸横断1,800マイル(約2,900キロメートル)踏破という目標を掲げた。

 シャクルトンは新聞広告で隊員を募集し、28人が冒険に参加することになった。実際に冒険が始まってまもなく、彼らに災いが降りかかった。船が氷の海に捕らえられ、動かなくなったのだ。やがて船は沈没し、シャクルトンと隊員たちは5カ月間氷の上で過ごす羽目になった。さらに氷が溶けていったため、救命ボートに乗り、近くの無人島をめざす。彼らが島に到着した頃には、出発から1年が経過していた。

 結局、さらに800マイル離れた島にある捕鯨基地にたどり着いて助けを求め、奇跡的に全員の命が助かった。

 この事故では、遭難中のシャクルトンのリーダーシップが隊員たちの命を救ったともいえる。シャクルトンは常に楽観的だった。隊員たちが悲観的にならないようシャクルトンは、ユーモアで楽しませ続けた。隊員には自分自身のことをお互いに話すよう促し、気持ちを一つにすることがこの状況を乗り越える力になる、というメッセージを繰り返し伝えた。

 シャクルトンには、未来のリーダーが持つべき「冒険家」のマインドセットがあったといえる。すなわち、好奇心を持ちつつ、前向きで強靭な意志を失わず、かつメンバーに対してはオープンマインドで接し、臨機応変に物事に当たれる、ということである。

ヒューマンとテクノロジーの絶妙なバランスをとれる「シェフ」

 「シェフ」のマインドセットについては、ジュリア・チャイルドを例に挙げよう。1960年代に書籍やテレビ番組などでフランス料理を米国人に紹介し、一般家庭に広めた料理家(シェフ)だ。

 チャイルドは、バランスの達人だった。彼女は、美味しい料理を作るために絶妙な素材のバランスを考えただけでなく、米国人の食文化や好み、足りない栄養素と、フランス料理のバランスをとった。つまり、ここで言う「シェフ」のマインドセットとは、さまざまな要素のバランスを完璧にとれることであり、未来のリーダーに必要とされるものである。

 私がインタビューした中に、仕事の中でのヒューマン(人間的)な側面と、ITやAIなどのテクノロジーを使用する機械的な側面のバランスをとる必要性を訴えるCEOが一定数いた。ヒューマンな側面とは、一緒に働く従業員への気づかいや、仲間意識、心理的安全性を高めることなどだ。機械的な側面とは、各種ITツールやAIを用いて、効率性や生産性、スピードなどを上げることを指す。未来のリーダーは、とくにこの両面のバランスをとることができるシェフであるべきだと思われる。

チームをボトムアップで支え、自己管理も怠らない「サーバント」

 次は「サーバント(奉仕者)」のマインドセットだ。現代のビジネスにおけるリーダーは、ピラミッドの頂点から、下々の者たちに仕事をするよう指示する人間ではない。反対に、ボトム(底辺)からメンバーたちを盛り立てる役割が求められる。2万人の従業員を雇うアムウェイのCEO、ダグ・デボスは「リーダーシップとは、周りの人がベストな状態になれるように彼らをサポートし、組織やチームを底上げして目標達成をめざすことである」と表現している。

 サーバントのマインドセットを持つリーダーは、さまざまな対象に対して「サービス(奉仕)」をすることを心がけている。メンバーやチーム・組織に対するサービスのみならず、顧客に対して、さらに自分自身に対する良いサービスを常に考えるのだ。自分自身に対するサービスとは、セルフケアを指す。的確な意思決定を行うには心身を健康に保つ心がけが欠かせない。

チェスの駒ではなくチェス盤全体を俯瞰的に見渡す「地球市民」

 「地球市民」のマインドセットとは、一言でいえばグローバルな視点で物事を捉えることである。ここでは、ベルギーの化学メーカー、ソルベイのCEO、イルハム・カドリに登場してもらおう。

 モロッコで生まれ育ったカドリは、フランスで高等教育を受け、博士号を取得。ロイヤル・ダッチ・シェルなどで活躍し、日本および南米で大型契約の交渉に携わり、中東とアフリカでプロジェクトを管理。ベルギーでマーケティングを推進し、米国でも事務所の開設に関わる。彼女がこれまでに在住したことがあるのは、世界の15カ国・地域にもなる。

 彼女は、忍耐の重要性を日本で学び、口頭での約束は書面と同等であることをサウジアラビアで痛感した。アフリカでは「急がば回れ」のマインドを知り、不可能など存在しないことを中国で悟った。さらに、起業家とは何かを米国で学び、ワーク・ライフ・バランスをヨーロッパで身につけた。

 そして何より、カドリが持つに至った最大の財産こそ、「地球市民」のマインドセットなのである。それには、常に他者のアイデアにオープンであり、自分と異なる文化や物事の進め方を尊重し、理解することが含まれる。

 「地球規模のマインドがなければ、世界規模の組織のリーダーにはなれない」と、ブッキングス・ホールディングスのグレン・フォーゲルCEOは言う。だが、地球市民のマインドセットが必要なのは、何もグローバル企業のリーダーだけではない。また、組織の大小も関係ない。

 地球市民のマインドセットで重要なのは、チェスの駒を見るのではなく、チェス盤全体を見渡すことだ。つまり、部分ではなく全体を見渡す俯瞰的な目を持ち、必要な戦略を判断できなければならない。

 これからますますグローバル化は進展するのは間違いない。将来、「米国企業」という呼び方はしなくなるかもしれない。「米国発祥のグローバル企業」といった言い方が当たり前になる可能性もある。世界全体を俯瞰し、文化や考え方、行動様式の違いを受け入れるどころか、歓迎するくらいのマインドセットが必須になると考えるべきなのだ。

コメント

本書は「未来のリーダー」について論じているが、ここで挙げられている「四つのマインドセット」はいずれも、時代に左右されない普遍的なものともいえる。テクノロジーの進化やグローバリゼーションの進展などにより世の中が複雑になればなるほど、変化の波に惑わされず、普遍的な資質に立ち返る必要があるということだろうか。また、これらのマインドセットに共通するのは謙虚さと冷静さである。『歴史秘話 外務省研修所』(光文社新書)には、20世紀前半に活躍した英国の外交官ハロルド・ニコルソンが示した「七つの外交上の美徳」が紹介されているが、その七つのほとんどが謙虚さと冷静さに関するものだ。不確実な未来に立ち向かうには、パッションだけでは歯が立たないのだろう。

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